唐臼山古墳 ― 2026年02月02日 00:24
唐臼山古墳(からうすやまこふん)は滋賀県大津市に所在する円墳であり、出土遺物および石槨構造から7世紀前半頃の築造と推定される。墳丘の規模は直径約20mとされる。
概要
本古墳は、比叡・平良丘陵から連なる志賀丘陵の湖岸側斜面上部、琵琶湖を望む尾根端部に立地する。標高は約130mを測り、周囲との比高差は約50mである。現在、墳丘は削平され現存せず、箱形石棺状石槨(横口式石槨)を構成していた石材が破損した状態で地表に露出している。
石槨は全長約5.75m、幅約1.5m、高さ約1.7mを測る。構造は、奥壁1枚、東側壁3枚、西側壁3~4枚の立石を配し、4枚前後の天井石によって玄室を覆う形式である。石材はいずれも大型の板石を用いており、当該期の近江地域において一定の社会的地位を有する被葬者の存在を示唆する。
石槨内床面には玉石が敷かれており、入口付近から土師器および須恵器の坏身・坏蓋片が確認されている。これらの土器の編年から、本古墳の築造年代は7世紀前半と判断される。
本古墳は、近接する和邇大塚山古墳との位置関係から、志賀地域における飛鳥時代の有力氏族墓域の一角を構成する可能性が指摘される。また、横口式石槨を採用する点において、近江における同形式石槨の展開を考察する上で重要な事例と位置づけられる。
唐臼山古墳は、遣隋使として知られる小野妹子の墓に比定される伝承を有する。その根拠として、『新撰姓氏禄』左京皇別下小野朝臣条に「大徳小野妹子、近江国滋賀郡小野村に家れり」と記され、小野氏の本拠が滋賀郡にあったことが知られる点が挙げられる。さらに、本古墳の築造年代が妹子の推定没年(7世紀中葉)と大きく乖離しないことも、この比定説の背景となっている。
しかしながら、被葬者を小野妹子本人と特定し得る直接的な考古学資料は確認されておらず、当該比定については伝承的解釈の域を出ない。現段階では、小野氏系統の有力人物の墓である可能性を含め、慎重な検討を要する。
和邇大塚山古墳および近江地域における横口式石槨との対比
1.問題の所在
唐臼山古墳は、近江地域において横口式石槨を採用する数少ない古墳の一つであり、その築造年代・立地・石槨構造は、当該地域における飛鳥時代の葬制および有力氏族の動向を検討する上で重要な資料となる。本節では、近接する和邇大塚山古墳との比較を軸に、近江地域における横口式石槨の展開と唐臼山古墳の位置づけについて考察する。
2.和邇大塚山古墳との比較
和邇大塚山古墳は、唐臼山古墳の近傍に所在する大型古墳であり、志賀地域における有力首長層の墓域を構成すると考えられている。和邇大塚山古墳は横穴式石室を主体とする点で唐臼山古墳とは構造的に異なるが、両者はいずれも琵琶湖を望む丘陵上の高所に立地し、視認性の高い場所を選地している点で共通する。
また、両古墳が築造された7世紀前半は、近江地域において在地有力氏族がヤマト王権との関係を背景に墓制の多様化を示す時期に相当する。和邇大塚山古墳が比較的伝統的な横穴式石室を採用するのに対し、唐臼山古墳が箱形石棺状石槨、すなわち横口式石槨を採用する点は、同一地域内における葬制の選択差を示すものとして注目される。
この差異は、被葬者の系譜的背景や政治的立場の違い、あるいは中央的葬制の受容度の差異を反映する可能性があり、志賀地域内部における権力構造の多層性を示唆する。
3.近江地域における横口式石槨の展開
近江地域において横口式石槨が確認される事例は限られており、畿内中枢部と比較するとその分布は希薄である。一般に横口式石槨は、飛鳥地域を中心に7世紀前半以降、中央官人層やそれに準ずる地位の人物の墓制として採用される傾向が指摘されている。
唐臼山古墳の石槨は、大型の板石を用い、内部に玉石敷きを伴う点で、畿内の横口式石槨と基本的構造を共有する。一方で、規模や構築技法には地域的制約も認められ、中央部の著名事例と比較すると簡略化の傾向も看取される。
このことから、唐臼山古墳は、中央的墓制である横口式石槨を直接的に模倣した事例というよりも、近江地域において在地有力層が中央の葬制理念を選択的に受容した結果と位置づけることができる。
4.唐臼山古墳の性格と位置づけ
以上の比較から、唐臼山古墳は、和邇大塚山古墳に代表される志賀地域の有力首長墓群と空間的・時間的に近接しつつも、異なる墓制を採用する点で独自の性格を有する古墳であることが明らかとなる。
横口式石槨の採用は、被葬者がヤマト王権の官人層、あるいはそれに近接する政治的地位にあった可能性を示唆するが、同時に近江という畿内周縁地域における墓制受容のあり方を具体的に示す事例でもある。
唐臼山古墳は、近江地域における飛鳥時代葬制の多様性と、中央―地方関係の一端を考察する上で重要な位置を占める遺跡と評価される。
規模
- 径20mほどの円墳と見られる。
遺構
- 箱形石棺状石室
遺物
- 須恵器の坏身
- 坏蓋
指定
被葬者
- 遣隋使小野妹子の墓との伝説。
築造時期
- 7世紀前半から中頃の築造と見られる
展示
アクセス等
- 名称:唐臼山古墳
- 所在地:滋賀県大津市小野水明一丁目
- 交通: JR小野駅 徒歩 15分
参考文献
- 滋賀県史蹟名勝天然紀念物調査会(1939)『滋賀縣史蹟調査報告:小野神社と唐臼山古墳・膳所園山古墳・国分大塚古墳・藤尾山田堂の石仏・鵜川四十八体仏』滋賀県
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