桂甲 ― 2026年04月18日 20:47
桂甲(けいこう)は鉄製の小札(こざね)を革紐や組紐で綴り合わせて作られた古代の甲冑である。主として古墳時代後期の倭国において普及した防御具で、騎馬戦の展開と深く関わる。小札は甲冑を構成する短冊状の小さな板状部品である。
起源と伝来
桂甲の技術は、中国の戦国時代以降に発達した小札甲(ラメラーアーマー)に起源を持つ。小札甲が朝鮮半島を経由し、5世紀中葉頃に騎馬技術とともに倭国へ伝来したとされる。
構造と特徴
桂甲は、多数の小札を縦横に連結して構成される柔軟性の高い甲冑である。小札は主に鉄製であるが、まれに金銅装が施される例も知られる。 一領の桂甲は複数の部位から構成され、主な構成要素は以下の通りである。
- 頚甲(けいこう:首周りの防具)
- 肩甲(けんこう)
- 草摺(くさずり:腰から下を守る部分)
- 膝甲(しつこう)
- 籠手(こて:腕の防具)
- 臑当(すねあて)
これらは用途に応じて組み合わされ、全体として高い防御力と可動性を両立している。
短甲から桂甲への変化
倭国では古墳時代中期まで、板状鉄板を用いた「短甲」が主流であった。しかし古墳時代後期になると桂甲が普及し、やがて主流となる。 この変化は、騎馬戦の導入など戦闘様式の変化に対応したものと考えられている。なお、5世紀代には短甲と桂甲が併存していた。
考古資料と復元研究
桂甲は有機質の紐で綴られているため、出土時には小札が分離している場合が多く、原形を保つ例は稀である。そのため復元研究は、小札の形状・穿孔・綴じ方(横綴じなど)・素材分析に基づいて行われている。
特に重要な資料として、飛鳥寺跡の塔心礎から出土した桂甲がある。この遺物は年代が比較的限定できるうえ、全体構造を復元可能な点で極めて貴重である。研究によれば、基本構造は古墳時代の桂甲と共通するが、以下の特徴が指摘されている。
- 腰部に外反する小札を使用
- 草摺の前面で重なりを多く取る構造
この桂甲は、飛鳥寺創建に関わった蘇我馬子による埋納の可能性も指摘されている。
埴輪資料
桂甲の着装状態を示す視覚資料として、群馬県太田市飯塚町出土の「挂甲の武人」が著名である。この埴輪は国宝に指定されており、当時の武人の装備を具体的に示す重要資料である。
まとめ
桂甲は、小札を綴り合わせる構造によって高い機動性を実現した古代甲冑であり、騎馬戦の普及とともに倭国で発展した。出土状況の制約から復元研究が重要視されるが、飛鳥寺出土例や埴輪資料によって、その実態が徐々に明らかにされている。
参考文献
- 横須賀 倫達(1997)「常陸の桂甲」『博古研究』(通号 13),博古研究会,pp.31~42
- 深谷淳 (2009)「小幡茶臼山古墳の研究 築造時期の再検討と桂甲所有の政治的背景」『美濃の考古学』10,pp.25-54
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