サヌカイト ― 2026年02月01日 00:03
サヌカイト(さぬかいと)は高マグネシア安山岩に分類される火山岩で、主に古銅輝石を含むことを特徴とする。中新世中期の瀬戸内海地域における火山活動によって形成された瀬戸内火山岩帯を代表する岩石である。「讃岐岩」あるいは、叩くと金属音を発することから「カンカン石」とも呼ばれる。
概要
本岩は1890年代前半に来日したドイツ人地質学者エルンスト・ヴァインシェンク(Ernst Weinschenk)によって研究され、主要産地の一つである讃岐国(現在の香川県)にちなみ Sanukit(後に Sanukite)と命名・報告された。 サヌカイトは黒色で緻密かつ硬堅、斑晶が少なく、ガラス質で微晶質の均質な岩質を示す。貝殻状断口をもち、鋭利な剥離面が得られるため、加工性に優れる。 この特性から、主に縄文時代から弥生時代にかけて、石鏃・石刃・石包丁形石器などの石器材料として広く利用され、一部では旧石器時代の使用例も知られる。 主な産地は香川県の五色台、大阪府と奈良県にまたがる二上山周辺、坂出市の金山・城山などに限られるが、考古遺跡からは原産地を離れた地域でも出土し、広域的な流通・交易の存在を示す重要な資料となっている。
サヌカイトの考古学的意義
サヌカイト(讃岐岩)は、主に瀬戸内海沿岸の限られた地域で産出する火山岩であるが、考古学的にはその産地の限定性と、広域的な分布状況に最大の特徴がある。特に縄文時代後期から弥生時代にかけて、石鏃・石刃・石包丁形石器などの主要石器材料として用いられ、原産地を大きく離れた地域の遺跡からも多数出土している。
サヌカイトは、黒色で緻密、均質な岩質をもち、貝殻状断口により鋭利な刃部を得やすい。このため、狩猟具や農耕具の刃材として極めて優れており、機能的価値の高さが遠距離搬送を可能にした重要な要因と考えられる。
主要な原産地は、香川県の五色台、大阪府・奈良県にまたがる二上山周辺、坂出市の金山・城山など、瀬戸内火山岩帯に限られる。しかし、これらの地域から数十から百数十キロメートル以上離れた畿内各地、近畿東部、さらには東海地方の遺跡においても、サヌカイト製石器が確認されている。この分布は、単なる局地的資源利用を超えた広域流通網の存在を示唆する。
流通形態については、未加工の原石や剥片の搬送だけでなく、半製品あるいは完成品としての移動も想定されている。特に弥生時代には、集落間の物資交換や首長層を介した配布の可能性が指摘され、サヌカイト製石器は単なる道具素材にとどまらず、社会関係や地域間ネットワークを可視化する物質資料と位置づけられる。
また、産地周辺では大規模な採取・加工の痕跡が確認される一方、消費地では完成品が多い傾向がみられることから、採取地→加工地→消費地の役割分担が成立していた可能性も論じられている。これは、縄文社会後期から弥生社会への移行期における、分業化や社会的階層化の進展を考える上でも重要な視点である。
このようにサヌカイトは、単なる優良な石器素材ではなく、人々の移動、交易、社会的結びつきを読み解く鍵となる考古資料であり、瀬戸内地域を核とした広域交流の実態を復元する上で、欠かすことのできない存在である。
参考文献
- 薬科哲男、東村武信(1977)「蛍光X線分析法によるサヌカイト石器の原産地推定(Ⅲ)」考古学と自然科学 第10号
- 奈良国立博物館(2008)『正倉院展六十回のあゆみ』奈良国立博物館
- 山口卓也()「サヌカイト以前」
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