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下宅部遺跡2024年07月29日 00:20

下宅部遺跡(しもやけべいせき)は東京都東村山市にある縄文時代後期の遺構を中心とする複合遺跡である。

概要

縄文時代後晩期に於ける水辺利用のための施設である。古代から中世にかけての湧水地付近の谷から丘陵部を利用した古墳の水場遺構である。 平成11年に縄文時代後期の水場遺構から丸木舟未製品が発掘された。調査団はこの大型加工木材を詳しく調べた結果、縄文人が丈夫なケヤキを加工しながら製作していた丸木舟であったが、何らかの理由で完成しなかったと判断された。大型加工木材は奈良県の施設に運び、約4年間かけて特殊な薬品に漬け込む保存処理を施した。 下宅部遺跡では当時、漆を採取した後の木を杭として利用していた。杭は5年から6年の若木が多い。木に漆液を採取したときにできる傷があった。細い木では傷の間隔が狭く、太い木では間隔が広くなっていた。無駄の少ない間隔を知っていたことになる。漆関係の出土は他所にはない大きな発見であり、ほぼ原型のままの状態で発見されたため、当時の漆工技術を知る手がかりとなった。

調査

1995年(平成7年)の発見以来、約10年の発掘・整理調査を経て、報告書が刊行された。1東京都と埼玉県の境である狭山丘陵の東端近く、東村山市多摩湖町四丁目3番地で発見された。縄文時代後期、加曽利B式期の頃(約3,500年前)の水辺での作業の痕跡がよく残っている。洪水による埋没後も、川が地下水となって流れ続け、漆や木材など普通の状態では腐る有機質の遺物が、良好な状態で保存されていた。漆工・カゴ編み・木材加工の他、堅果類の下処理やシカ・イノシシの解体作業、マメやアサの利用の様子が見られる。下宅部遺跡からは漆塗りの弓や杓子などの漆塗り木製品が出土し、調査中から全国的に「縄文の漆」で知られるようになっていた。報告書作成に向けた整理作業の中では、漆の木に水平な傷が付いていることが発見され、縄文時代初の漆樹液採取の痕跡が確認された。

遺構

  • トチ塚
  • クルミ塚

遺物

  • 縄文土器
  • 石皿
  • 磨石
  • 敲石
  • 石棒
  • 獣骨
  • 木製品
  • 網代
  • 動物遺存体(貝)
  • 加工木材
  • 植物遺存体
  • 丸木舟未製品

年代学的研究

工藤雄一郎・佐々木由香他(2007)は下宅部遺跡で検出された植物利用の遺構や遺物の時間的変遷を,放射性炭素年代測定結果に基づいて、年代学的な視点から提示した。射性炭素年代測定の結果として、測定対象とした遺構・遺物は約5300〜2800cal BP の約2500年の間に形成されたことが判明した。下宅部遺跡の遺構や遺物は,おおよそ5 つのグループに区分できるとした。

  • S-1期(ca.5300 ~ 4800 cal BP 前後)縄文時代前期から中期 土器型式は縄文時代中期中葉の勝坂式期前後の時期に相当する。
  • S-2期(ca.4800 ~ 4400 cal BP 前後)縄文時代中期から後期 縄文時代中期後葉の加曽利E 式期に相当する。加曽利E2〜E3式期の可能性が高い。
  • S-3期(ca. 4500 ~ 3900 cal BP 前後)縄文時代後期から晩期 S-3期は4200 cal BPを境としてS3a期とS3b期に細分できる可能性がある。その場合,第8 号水場遺構がS3a期で,縄文時代後期初頭の称名寺式期となり、9号編組製品と第4号トチ塚がS3b期に相当し,称名寺2式から縄文時代後期前葉の堀之内式期頃に相当する。
  • S-4期(ca. 3800 ~ 3300 cal BP 前後)縄文時代晩期 縄文時代後期中葉の加曽利B 式期に相当し,中心は加曽利B1〜B2式期であると考えられる。
  • S-5 期(ca. 3400 ~ 2800 cal BP 前後) 縄文時代晩期前葉から中葉の安行3a 〜3d式期に相当する。後期末葉の安行2式の土器の時期も含む可能性がある。

各期の特徴

工藤雄一郎・佐々木由香他(2007)はS-1期からS-2期にかけて食料として利用された可能性のある主要な種実は第1号・第2号クルミ塚から産出したクリ,オニグルミ,トチノキ,ナラガシワであるとした。S3期は下宅部遺跡での人の活動が最も活発になる時期である。特にS-3b 期とS-4期に出土遺物が多い。特徴的な種実としては、トチノキ(第4号トチ塚)とアカガシ−ツクバネガシ(49号編組製品)がある。S-3期からS-4期にかけては,トチノキのほか、アカガシ−ツクバネガシ果実やクヌギ節果実なども利用されている。クリの用材利用も明らかになっている。後期末葉から晩期安行. 式期を中心とするS-5 期には,植物利用の明確な痕跡は少ない。「中期のクリ,後・晩期のトチノキ」と二項対立的な整理ではなく,遺構や遺物をより詳細に時間的変遷,気候・地形・植生の変化の特徴,利用植物の多様性を検討する必要がある。

木杭の漆の年代学的研究

下宅部遺跡から出土したウルシの杭500点中70点の杭は樹種同定によってウルシと同定されている。工藤雄一郎(2007)は線状の痕跡のある8点のウルシの杭について放射性炭素年代測定を実施した。年代値は3725〜3375cal BP の間で大きくふたつのグループに分かれており、古い一群は縄文時代後期前葉の堀之内1から2式期に位置づけられ,新しい一群は縄文時代後期中葉の加曽利B1〜B2式期に位置づけられると結論づけた。

指定

  • 令和2年9月30日 - 国の重要文化財 土器・土製品、石器・石製品、木器・木製品

展示

  • 東村山市立八国山たいけんの里

アクセス

  • 名称:下宅部遺跡
  • 所在地:〒189-0026 東京都東村山市多摩湖町4丁目2-12
  • 交 通:西武鉄道医西武沿線 西武園駅から4分/300m

参考文献

  1. 下宅部遺跡調査団(2003)『下宅部遺跡』東村山市遺跡調査会
  2. 工藤雄一郎・佐々木由香(2007)「東京都下宅部遺跡から出土した縄文時代後半期の植物利用に関連する遺構・遺物の年代学的研究」植生史研究 第15 巻 第1号,pp.5-17
  3. 工藤雄一郎(2007)「下宅部遺跡から出土したウルシの杭とその年代」植生史研究 15 (1),p.18