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コクゾウムシ2024年07月28日 00:16

コクゾウムシ(こくぞうむし)は節足動物門/昆虫綱/コウチュウ目/オサゾウムシ科の昆虫で、貯穀害虫である。 漢字では「穀象虫」。「米虫」、「角虫(つのむし)」ともいう。

概要

細長い体形,硬い外殻,全身黒色,象の鼻のように長く伸びた口が特徴である。 もとはヒマラヤ南部の森林地帯に生息していた。約1万年前に西南アジアやヨーロッパに伝搬し、ドングリ貯蔵を契機として人間生活に入り込んだ。穀物農耕が始まると、貯蔵されているイネ・ムギ類に食害が起こるようになる。穀害虫化した時期は約9,000~8,000年前と想定されている。日本全土に生息するだけでなく、熱帯から温帯にかけて世界に広く分布している。野外や麦畑などでも確認されている。クリやドングリ(スダジイ,シラカシ,マテバシイ)のような堅実類でも果実に割れや穴があれば、卵を産みつけて繁殖できる。 コクゾウムシの圧痕が発見されている遺跡は,北は青森県,南は沖縄県まで全国に分布することが判明している(小畑(2016))。

縄文時代のコクゾウムシ

かって縄文後期後半に土器にコクゾウムシの圧痕が見つかったとき、縄文後期農耕の有力な証拠とみられていた(山崎純男(2005))。その後、安藤広道がこれに疑問を呈し、安易な圧痕同定・土器型式比定・論理展開に慎重論を提示した(安藤,2006, 2016)。小畑弘己(2012)は「貯蔵乾燥植物性食物(ドングリ・クリ・マメ類)を加害した家屋害虫であり,集落の定住性と大型化と深い関係があった」と指摘する。つまり、縄文後期後半の土器のコクゾウムシ圧痕だけでは穀物農耕の証拠にはならない。堅果類のデンプン質があれば、コクゾウムシの幼虫は成長できるのである。コクゾウムシの土器圧痕は縄文後期のイネ農耕ではないという証拠が2つある。

  • その1 縄文コクゾウムシは現代のイネを加害するコクゾウムシや日本の古代・中世のコクゾウムシより平均で2.5割ほど体(長さ)が大きい。生育実験(ココクゾウムシ)によればマメ 類や麦類で飼育したコクゾウムシの集団より,コナラ属種子やクリで育てた集団の体重が重くなり,貯蔵食物の偏った栄養素(炭水化物が多い)に適応するための体内バクテリアの数も多い大きくなることが証明されている。
  • その2 1万年以上前の縄文土器にコクゾウムシの圧痕が見つかった。この時代には、穀物栽培はなかったから、ドングリやクリにつくコクゾウムシと見られる。2010年春、鹿児島県西之表市三本松遺跡の土器から、約10500年前のコクゾウムシの圧痕が発見された。研究成果はアメリカの電子ジャーナル科学誌 PLoS ONEに発表されている。三本松遺跡の例は世界の考古遺跡から発見されたコクゾウ族の中でもっとも古いものであった。

どのように渡来したか

コクゾウムシは飛翔が苦手であり,人や穀物に付着して運ばれること以外では海峡を越えること(数キロにわたる移動)は不可能である。北海道にクリがもたらされたときに、クリの果実に潜んで海を渡ったと考えられている。

越冬

コクゾウムシは15度以下あるいは33度以上では繁殖できない。成虫は低温では休眠状態で越冬し、一部の幼虫は穀物の粒の中で越冬する。成虫の寿命は100日から200日程度である。

ライフサイクル

卵は5日間、孵化して幼虫になるまで20日からlヵ月を要する。その後、蛹で5日を過ごし成虫となる。雌は64.3±38.6 日 、雄は100.9±46.4 日生息する。メスは年間3回から4回産卵する。穀物1粒あたり1個の卵を産み付ける。

考察

現代ではコクゾウムシは成虫、幼虫のどちらも米、麦、とうもろこしなどの貯蔵穀物をはじめ、加工食品(乾めん、マカロニなど)まで食べることが分かっている。コクゾウムシの成虫は象の鼻のような口先に強力な顎を持ち、米に穴を開け、卵を産む。穀粒の中では玄米を最も好む。コクゾウムシが土器に練り込まれているということは、縄文時代の間から現代まで、長らく人間生活に入り込んでいたことになる。日本人とコクゾウムシの関わりを示す物証の一つとして,青森県の三内丸山遺跡から見つかったおよそ5000年前のコクゾウムシの生体化石や土器圧痕が証拠として挙げられる(小畑,2016)

参考文献

  1. 安藤広道(2016)「コクゾウムシは何をたべたか」『魂の考古学』初版,豆谷和之さん追悼事業会,奈良,pp.173-182
  2. 安藤広道(2006)「先史時代の種子遺体・土器圧痕の分析をめぐる覚書」西相模考古,15: pp.111-122
  3. 小畑弘己(2012)「イネを食べなかった縄文時代のコクゾウムシ」植生史研究 第21巻 第2号,@@.53-54
  4. 小畑弘己(2016)「タネをまく縄文人 最新科学が覆す農耕の起源」,吉川弘文館
  5. 小畑弘己(2022)「コクゾウムシと縄文人」文化財の虫菌害83号
  6. 藤尾慎一郎(2024)『弥生人はどこから来たのか』吉川弘文館
  7. 山崎純男(2005)「西日本農耕論.韓日新石器時代の農耕問題」,(財)慶南文化財研究院,韓国,pp.38-41.

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