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古代の箸2024年04月02日 00:10

古代の箸(こだいのはし,英ancient chopsticks)は食事をとるための細長い二本の木の棒である。

概要

箸の登場にはいくつかの説がある。一般には縄文時代説、弥生時代説、飛鳥時代説、奈良時代説がある。古墳時代説はない。

縄文時代説

三田村有純(2009)は船泊遺跡(北海道礼文町)、鳥浜貝塚(福井県、長さ22cm)から木または骨製の長い棒が出土していると指摘した。箸状のものだけでなく、骨製のスプーン(匙)が船泊遺跡で出土している。下宅部遺跡(東京都東村山市)からは漆塗のスプーン(匙)が出土している。 木は腐りやすく、湿地でなければ残らない。骨は酸性土壌では分解されてしまうが、アルカリ性の強い砂丘や粘土等の密閉性が高い環境、残存状況が良好な甕棺墓・石室等に葬られていた場合などでなければ残らない。 中国の跨湖橋遺跡では、中国でもっとも古い漆塗りの橋が出土した。放射性炭素測定では7000年から8000年前とされている。これは三田村有純がみるところ鳥浜貝塚とまったく同じ形状であるという。 もうひとつの証拠は「箸」の呼称である。中国語で「箸」は「ヂュ」と読む。明代に筷子(クゥワイズ)に変わった。ハングルでは젓가락(チョッカラ)という。カラは愛称なので、本体はチョであり、これは中国語の古い呼称と同じである。日本では「箸」の漢音読みは「チョ」であるが、日常でハシと呼ぶのは、日本古来の発音だったからというのが、三田村有純の説明である。

弥生時代説

本田総一郎(1978)によれば、箸が農耕文化の一環として大陸・朝鮮半島伝来した時期は、弥生時代末期とする。しかし、弥生時代に中国から伝来した箸は祭祀儀式用として使われたもので、民衆の日常の食器ではなかったとする。

飛鳥時代説

向井由紀子(2001)は6世紀には仏教が伝来し、大陸との交流が頻繁となり、7世紀後半の遺跡の板葺宮遺跡や藤原宮遺跡から檜製箸状の出土品が匙形の物と共にみられるとする。箸状の道具は食事用よりも調理用の方が出現が早かったとする(向井由紀子他(1977))。二 本の箸が日本人の食生活 の中で日常化したのは3~5世紀の間と向井由紀子他(1977)は推察している。本田総一郎(1978)は考古学の遺物としては飛鳥板葺宮遺跡や藤原宮遺跡から出土した桧の箸は最も古いとする。

隋書倭国伝

「俗無盤俎,藉以餔葉,食用手餔之」(一般人は皿や食卓が無く、柏の葉で受け、手で食べる)と書かれる通り、随使の裴世清が来倭したときでも、一般人は手食であった。しかし宮中での歓迎の宴においては箸食での饗応を受けた。

奈良時代説

一色八郎(1990)は奈良時代に隋使の来日をきっかけとして、宮中の儀式や供宴に、中国式の会食作法が採用され、、『馬頭盤』にのせられた金や銀の箸と匙を使用したとする。 本田総一郎(1978)によれば、藤原宮から出土した箸の長さは約15cmから22cm、径は0.4cmから0.7cmであった。平城宮出土の箸は桧、杉、雑木で作られた箸が大量に出土した。長さ13cmから25cm、径は0.5cm、中程は太く、両端を細くして丸く削った羹箸(太鼓箸、俵箸ともいう)、片口箸(先端を細く丸く削った箸)、寸胴箸の3種である。内裏で天皇や貴人が使った箸は桧または柳を使った白く細い両口箸であったから、羹箸、片口箸、寸胴箸の3種は貴人出ない官人、一般職員が使用した物である。八世紀初頭からは、手食から箸食への転換が進められた。

考察

『魏志倭人伝』や『随書倭国伝』などの中国史書は、いずれも日本人の食生活を手づかみで食べる手食様式を伝える。中国優位の思想の反映があるとしても、何らかの事実の反映があったであろう。縄文時代や、弥生時代の箸は、あったとしても主に祭祀・儀式用の祭器として使われ、民衆の日常の食器ではなかった。一般庶民が使用していたなら、大量に出土してもよいはずである。しかし調理した熱いものをそのまますべて手づかみで食べたのだろうかという疑問はあるが、どうやら木の葉で受けて、少し冷ましてから食べたのであろう。

鳥浜貝塚からは、機遺物、植物遺物、魚介類、漆製品等が出土し、土器から魚介類を煮炊きした形跡の鑑定結果がでている。静岡県登呂遺跡では木製の匙が出土しているから、匙から箸を着想することは難しくない。しかし縄文時代、弥生時代では木の細い棒を表面が滑らかになるよう、加工する道具が身近になかったと考えたい。出土物の確実なところでは、板葺宮遺跡出土の木製箸を嚆矢であるがこれは儀式用とすれば、一般に普及し、日常的に普及した時期は奈良時代の初め頃であったとするのが妥当であろう。

出土例

  • 木の箸 - 船泊遺跡、北海道礼文町、縄文時代
  • 骨製の箸 - 鳥浜貝塚、福井県、縄文時代
  • 木の箸 - 飛鳥板葺宮、飛鳥時代

参考文献

  1. 三田村有純(2009)『お箸の秘密』里文出版
  2. 本田総一郎(1978)『箸の本』柴田書店
  3. 一色八郎(1990)『箸の文化史 世界の箸・日本の箸』 御茶の水書房
  4. 向井 由紀子(2001)『箸』 法政大学出版局
  5. 向井由紀子、橋本慶子、長谷川千鶴(1977)「わが国におけ る食事用 の二本箸 の起源 と割箸について」調理科学