矢野遺跡 (徳島) ― 2026年03月03日 01:10
矢野遺跡 (徳島)(やのいせき)は徳島県徳島市、吉野川支流の鮎喰川左岸に位置する縄文時代後期から弥生時代を中心とする大規模集落遺跡である。標高約10m前後の自然堤防状の微高地上に立地し、南北約2km・東西約1kmにおよぶ広範囲に遺構・遺物が分布する。
1.縄文時代の展開と評価
- (1)成立時期と存続期間
- 吉野川の支流、鮎喰川左岸の標高10m 前後の微高地に位置する。南北約2km、東西約1km の範囲に拡がり、縄文時代以降の非常に大規模な遺跡であり、特に徳島県内の弥生時代に中心的な役割を果たした集落である。集落形成の中心は縄文時代後期初頭~前葉にかけてであり、後期前葉まで約300年前後の継続が想定され、一定規模の集落が営まれた。弥生時代の遺構は、現在までに竪穴住居跡 約100棟が見つかっている。5~10軒で一つの群をなし、住居と住居は数m の間隔で存在していた。
- (2)洪水による廃絶
- 後期前葉に洪水砂層が確認されており、洪水を契機に集落構造が大きく変化、あるいは一時的中断が生じた可能性が高い。
2.縄文時代土製仮面の意義
1996年、矢野遺跡で土製仮面が出土した。供伴した土器が縄文時代後期初頭であることから、同時期と見られる。顔面全体に丸い道具で突き刺した模様がある仮面である。縄文時代で土製仮面が出現するのは中期から後期初頭である。矢野例は出現期に近い段階の資料と評価される。土製仮面は本遺跡の重要資料である。土製仮面は祭祀・通過儀礼・シャーマニズム的行為との関連が議論されている。集落域内での出土である点が重要であり、集落で使われていたことを示唆する。
- 時期:縄文時代後期初頭である。
- 特徴:顔面全面に丸棒状工具による刺突文がある。
- 分布:縄文中期末~後期初頭に瀬戸内・近畿・東北南部へ展開している。
3.弥生時代の大規模集落化
- (1)人口増加の時期
- 矢野遺跡は弥生時代の中期後半~後期初頭にかけて人口が急速に拡大した。
- (2)住居構造
- 竪穴住居約100棟以上
- 5~10棟単位の小群構成
- 数m間隔で配置
との特徴は計画的集落構造の萌芽を示す可能性があり、吉野川流域における中核的拠点の一つと評価できる。
4.鍛冶遺構と鉄器生産
鍛冶関連遺構の存在は、弥生後期段階における
- 地域内鉄器流通拠点
- 技術受容の先進地
としての性格を示唆する。集落内で鍛冶関連活動が行われた可能性が高い。
5.水銀朱の問題
1994~1998年の道路建設に伴う発掘では、
- 竪穴住居19棟
- 土器・石器に水銀朱の付着
が確認された。これは(1)朱の精製・加工痕の可能性、(2)葬送儀礼用途の可能性の2説がある。
6.銅鐸埋納の意義
矢野遺跡最大の特色は銅鐸出土状況である。
- (1)埋納状況
- 埋納坑:1.37×0.61m、深さ約0.5m
- 鰭を上下にした状態
- 周囲に柱穴列(切妻建物の可能性)
- (2)形式
- 突線鈕式
- 突線袈裟襷文銅鐸
- 弥生後期の新段階型式
- (3)学術的意義
- 従来、銅鐸は山間部など集落外出土例が多い中、集落域内、しかも竪穴住居から約10mの至近距離で出土したことは画期的である。また、同一層位から弥生土器が出土したことで、 銅鐸埋納の年代を具体的に比定できた稀少例となった。層位的に明確な年代資料を伴う例として重要である。
7.全体評価
矢野遺跡は次の複合的性格を持つ、吉野川流域研究の基準資料となる。
- 縄文後期の大規模集落
- 出現期に近い土製仮面出土例
- 弥生中後期の拠点的環濠性集落群の一角
- 鍛冶関連遺構を伴う技術拠点
- 集落内銅鐸埋納という特異事例
遺構
- 竪穴建物
- 土坑
- 溝
- ピット
- 貯蔵穴
- 土坑
- 銅鐸埋納土坑
- 井戸
- 溜池
- 河川
- 土壙墓
- 周溝墓
- 集石
- 土器溜
遺物
- 弥生土器
- 鉄製品
- 剥片(サヌカイト製)
- 銅鏃
- 石器
- 青銅器
- 突線鈕5式近畿IV式銅鐸1(国指定重文)
- 土器(深鉢+鉢+浅鉢+双耳+壺+壺)
- 土製品
- 石鏃
- 石匙
- 石錘
- 削器
- 楔形石器
- 石斧
- 石皿
- 石杵
- 敲石
- 台石
展示
- 徳島県立埋蔵文化財総合センター
- 徳島市立考古資料館
指定
- 1995年6月15日 - 重要文化財(考古資料)指定
アクセス等
- 名称:矢野遺跡
- 所在地:徳島県徳島市国府町矢野
- 交通:JR徳島駅から徳島バスが運行する「石井・鴨島線」(15番乗場、「石井」方面行き)などに乗車し約20-30分程度。バス停「矢野西」や「国府」で下車する。
参考文献
- 松永住美ほか(1983)『矢野遺跡国府養護学校地区現地説明会資料』
- 徳島県埋蔵文化財センター(1993)『矢野銅鐸』
- 氏家敏之(2018)『徳島の土製仮面と巨大銅鐸の村』新泉社
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