衣蓋 ― 2023年12月07日 23:46

衣蓋(きぬがさ)は貴人の頭上にさしかける絹または織物を張った長い柄をつけた傘である。 「衣笠」・「絹傘」・「蓋」とも書く。
概要
段上達雄(2012)は衣蓋は権力の象徴とする。 倭国では4~5世紀ごろの古墳などから、絹などの布を張った木製の傘、つまり「蓋(衣笠)」を象った蓋形埴輪や、蓋の上部に飾りとしてつける木製の立ち飾りが出土する。本来は雨や日差しから貴人を防護する道具である。日本では、古墳時代の下田遺跡(大阪)で、衣蓋の笠骨が出土している。 古代オリエントやエジプト、ペルシャの彫刻や絵画には、王の頭上に差しかける蓋が描かれている。中国の漢の時代の画像石や鏡などにも笠状の覆が見られる。 天皇即位儀礼の大嘗祭では、菅蓋という垂下式傘型の威儀具が用いられている、これは衣蓋と同じで、天皇の権威を表す威儀具である。
蓋形埴輪
貴人にさしかける日傘をかたどった埴輪である。名のとおり傘の部分に絹をはり、傘上部には羽のような立飾りがある。建物に衣蓋がかかるのは、貴人の住まいを表しているからであろう。
法隆寺
東京国立博物館の法隆寺宝物館に収蔵されている「太子絹笠」は、聖徳太子が斑鳩宮から、推古天皇の宮であった小治田宮への参内の際に用いた差し傘の蓋布と伝わる。山辺知行によると、『斑鳩古事便覧』に「御指傘、 太子自斑鳩宮、推古天皇宮所小治田宮江御往来時用」と記されている。法隆寺の古い目録に「蜀紅太子御絹笠」と載せられる。
大宝律令
飛鳥時代に制定された『大宝律令』には、儀式に使用する蓋の色が、身分ごとに決められていた。一位は深緑色、三位以上は は紺色、四位は縹色。裏は朱色で、総は同色を用いると記されている。 弥生時代からすでに身分差が生じているが、飛鳥時代には色で外形的に身分を表す段階に到達している。
- (原文)「凡蓋、皇太子、紫表、蘇方裏、頂及び四角、覆錦、垂総。親王、紫大纈。一位深緑。三位以上、紺。四位縹。四品以上、及一位、頂角覆錦、垂総。謂唯得覆錦、不可垂総、其大納言以上者、兼用錦総也。唯大納言以上、垂総。並朱裏総用同色。謂総者、聚束也。同色者與表同色」
万葉集
- (原文)240 久方の天ゆく月を網に刺し わご大王は蓋にせり
- 大意 空を行く月を網でとらえて わが大王は衣蓋にした
- 空の月を捕まえて衣蓋にしたという単純な意味であるが、空の月すらも権威を表しているというところであろうか。
出土例
- 衣蓋埴輪 誉田白鳥埴輪製作遺跡、大阪府羽曳野市誉田5世紀後半から6世紀前半
参考文献
- 段上達雄(2012)「きぬがさ2―古代王権と蓋―」 - 別府大学大学院紀要
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