佐良山古墳群 ― 2023年10月30日 23:14
佐良山古墳群(さらやまこふんぐん)は、岡山県津山市佐良山地区にある170基以上の古墳の総称である。
概要
岡山県北部の津山盆地の南西部に佐良山古墳群は位置する。
調査
近藤義郎による古墳時代後期の墓制、家父長制社会の研究の原点として知られる。昭和26年の最初の調査以降、2023年までに28基が発掘された。平成30年から令和2年にかけて津山南道路の工事に伴い、佐良山古墳の支群である桑山古墳群の13基を発掘した。
桑山古墳群
桑山古墳群は桑山古墳群の1号墳から5号墳、桑山南古墳群の1号から3号、5号墳、細畝古墳群の1から3号墳、高尾北ヤシキ古墳で構成される。円墳5基と箱式石棺墓1基、土器棺墓1基がある。桑山1・2号墳は岡山県北部で最古級の横穴式石室である。 桑山南古墳群は円墳5基と箱式石棺墓2基、土坑墓4基で構成される。桑山南1号墳の横穴式石室には陶棺2基が据えられていた。石室の入り口付近の石材近くから鈴付高杯が出土した。祭司や葬送儀礼に使われた可能性がある。細畝古墳群は円墳3基、箱式石棺墓2基で構成される。細畝1号墳からは美作地域で最古段階の陶棺、細畝3号墳からは県内で3例目の特殊扁壺が出土した。
- 桑山1号墳
導入期の片袖式横穴式石室である。桑山1号墳は、径約19 mの円墳である。周溝からは須恵器、円筒埴輪、石見型埴輪が出土した。周溝の北西側には土橋状に掘り残した部分が認められた。埋葬施設は南西に開口する全長6.3 mの片袖式の横穴式石室で、閉塞は板石閉塞である。石室内は攪乱を受けていたが、須恵器、大刀、石突、鉄鏃、馬具、玉類が出土した。板石閉塞。大型提瓶、把手付高杯が出土。
- 須恵器
- 大刀
- 石突
- 鉄鏃
- 馬具
- 玉類
- 円筒埴輪
- 石見型埴輪
- 桑山2号墳
導入期の両袖式横穴式石室。桑山2号墳は、径約13 mの円墳である。周溝からは円筒埴輪、石見型埴輪が出土した。埋葬施設は南西に開口する全長3.68 mの両袖式の横穴式石室で、塊石と板石を用いて閉塞していた。石室は大きく攪乱を受けていたが、床面の礫床は良好に遺存しており、その上から須恵器、素環頭大刀、鉄鏃、馬具、刀子、耳環が出土した。
- 須恵器
- 素環頭大刀
- 鉄鏃
- 馬具
- 刀子
- 耳環
- 円筒埴輪
- 石見型埴輪
- 桑山3号墳
- 直径約10mの円墳で、横穴式石室をもつ1・2号墳より斜面のやや上方に位置している。埋葬施設は箱式石棺と木棺の二つが検出された。土層の観察墳丘を構築する初期段階で箱式石棺が、墳丘の完成後に木棺が埋葬されたことが分かっている。箱式石棺は、長さ約95cm、幅約30cmと小ぶりあり、棺内からは約50個の多様な玉を連ねた首飾りを着けた3~4歳前後の小児人骨が出土した。その脇には鹿角製の把を装着した鉄刀が二振り、足下には19本の鉄鏃が置かれていた。岡山県内全体をみても、子どもの埋葬でこれほど多量の武器類をもつ例は少なく貴重である。 木棺は長さ約3.2m以上、幅約1.2m以上の穴のに納められ、棺の長さは約2mと推定される。棺の大きさからこちらは大人の埋葬と思われる。箱式石棺とは異なり遺物は全く出土しない。
- 土師器
- 須恵器
- 鹿角装短刀
- 鉄鏃
- 刀子
- 玉類
- 円筒埴輪
- 人骨
- 桑山4号墳
桑山4号墳は、径約10 mの円墳である。周溝の北西側には土橋状に掘り残した部分が認められた。埋葬施設は2基の竪穴式石室である。どちらの石室も天井石は失われていたが、床面は良好な状態であった。竪穴式石室1では木棺痕跡と棺台が認められ、須恵器、土師器、刀子、玉類が出土した。竪穴式石室2では礫床の上から須恵器、大刀、鉄鏃、刀子が出土した。
- 土師器
- 須恵器
- 大刀
- 鉄鏃
- 刀子
- 玉類
- 桑山5号墳
桑山5号墳は、径約10.5 mの円墳であると考えられる。周溝からは円筒埴輪、朝顔形埴輪が出土した。周溝の北西側には土橋状に掘り残した部分が認められた。埋葬施設は南西に開口する全長約7.0 mの片袖式の横穴式石室である。天井石は失われていたが、床面は良好に遺存していた。石室内からは、装飾壺や鈴付高杯などを含む多量の須恵器、土師器、大刀、鉄鏃、馬具、刀子、釘、玉類などが出土した。
- 土師器
- 須恵器
- 大刀
- 鉄鏃
- 弓飾金具(両頭金具)
- 馬具
- 刀子
- 釘
- 玉類
- 円筒埴輪
- 朝顔形埴輪
- 桑山南1号墳
1号墳は径約14 m、残存高約3mの円墳で、南東に開口する全長約6.5 m、高さ約1.7 mの横穴式石室をもつ。片袖式の横穴式石室には、棺として陶棺2基が埋葬されていた。副葬品には多数の土器、武器、馬具、工具、装身具などがある。6世紀末頃に築造され、7世紀の中葉頃まで追葬している。
銀象嵌装大刀は陶棺内から、鈴付高杯は石室床面から出土した。
- 須恵器
- 土師器
- 大刀
- 鉄鏃
- 馬具
- 弓飾金具
- 刀子
- 耳環
- 玉類
- 陶棺
- 桑山南2号墳
2号墳は6世紀中葉頃に築造された径8~9mの円墳で、全長約2.1 m、幅約0.5 mの竪穴式石室をもつ。石室内は一部攪乱を受けていたものの、原位置を保つと考えられる遺物が出土した。石室内から鉄鐸出土。墳丘上から子持器台が出土。
- 須恵器
- 鉄鏃
- 弓飾金具
- 鉄鐸
- 玉類
- 桑山南3号墳
3号墳は、7世紀前半から中葉頃に築造された径約12 m、残存高約4.5 mの円墳である。東に開口する無袖式の横穴式石室の規模は、全長約6.3 m、高さ約1.6 mを測る。棺には陶棺、「箱式石棺」と想定される仕切石のほか、木棺が想定される。
棺は陶棺2基、「箱式石棺」1基、木棺1基。石室内から鉄鐸・子持器台出土。
- 須恵器
- 土師器
- 大刀
- 鉄鏃
- 馬具
- 刀子
- 鉄釘
- 鉄鐸
- 耳環
- 玉類
- 陶棺
- 桑山南4号墳 4号墳は、調査区内に明確な墳端や周溝が確認されなかった。
- 桑山南5号墳
5号墳は径約9m、残存高約2mの円墳で、6世紀中葉頃に築造された。埋葬主体は竪穴式石室で、攪乱により天井石や壁体の約半分が失われたていたものの、その規模は全長約2.2 m、幅約0.7 mである。礫敷である床面から人骨が出土した。
2・5号墳とほぼ同時期の箱式石棺墓2基と土坑墓4基が検出されたほか、中世の土坑墓が10 基確認された。
- 須恵器
- 鉄鏃
- 刀子
- 人骨
- 細畝1号墳
1号墳は南に開口する横穴式石室をもつ径10.5 m、残存高約2mの円墳である。石室は無袖式で、その規模は全長約6.5 m、高さ約1.9 mを測る。棺には陶棺1基と箱式石棺がある。6世紀末葉頃築造され、7世紀中葉頃まで追葬している。
- 須恵器
- 土師器
- 鉄鏃
- 刀子
- 耳環
- 玉類
- 陶棺
- 細畝2号墳
2号墳は径約9m、残存高約2mの円墳で、北東に開口する横穴式石室がある。石室は無袖式で、その規模は全長6.05 m、残存高約1.25 mである。棺には木棺と陶棺があるが、陶棺についてはその出土状況から棺として利用していたのかは明らかでない。7世紀前葉頃に築造され、7世紀前半から中葉頃まで追葬が行われた。
- 須恵器
- 鉄鏃
- 鑷子状鉄製品
- 刀子
- 鉄釘
- 玉類
- 陶棺
- 細畝3号墳
3号墳は径約13 m、残存高約2mの円墳で、大規模に破壊された片袖式の横穴式石室をもつ。土器や金属器、玉類など多数の遺物が出土した。6世紀後半頃に築造され、7世紀中葉頃まで追葬が行われていた。
1号墳に先行する箱式石棺墓1基や時期不明の箱式石棺墓が検出されている。
- 須恵器
- 土師器
- 大刀
- 鉄鏃
- 馬具
- 刀子
- 耳環
- 玉類
- 特殊扁壺
近藤義郎による群衆墓の出現理論
- 古墳時代後期になると製塩、製鉄、農業の生産力が向上し家族の経済力が高まる
- 家族は家父長制を基盤として豪族から自立する
- 大和政権はこれを歓迎し家父長が古墳を作ることを容認する。それまでの貴族や豪族に加え、有力農民も古墳を築くようになったことを示す遺跡とされている。
新発見
2023年9月9日、岡山県古代吉備文化財センターは古墳時代後期とみられる小型古墳と住居跡を発見したと発表した。古墳は直径約10mの円墳で、墳頂部の竪穴式石室1基(長さ188cm、幅30~50cm)に、須恵器のふたと刀子とみられる鉄器が各1点出土した。
指定
アクセス
- 名称:佐良山古墳群
- 年代: 古墳時代後期から飛鳥時代
- 所在地:岡山県津山市高尾1582
- 交 通: JR佐良山駅(同市高尾)から北に1・2キロ
参考文献
- 大塚初重(1996)『古墳事典』東京堂出版
- 津山市(1952)『佐良山古墳群の研究』
- 近藤義郎(1983)『前方後円墳の時代』岩波書店
- 佐良山古墳群 新たに古墳と住居跡、山陽新聞、2023年09月09日
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