動物埴輪 ― 2026年02月18日 00:05
動物埴輪(どうぶつはにわ)は、古墳時代に製作された形象埴輪のうち、動物の姿をかたどったものを指す。円筒埴輪の展開のなかから生まれた造形表現であり、5世紀後半から6世紀にかけて各地の古墳に配置された。
■ 儀礼的性格をもつ鳥形埴輪
鶏や水鳥は比較的早期に出現する動物埴輪である。鶏は4世紀後半頃には見られ、5世紀にはさらなる広がりを示す。朝を告げる鳥として特別視された可能性が指摘されており、首長墓において祭祀的意味を担ったと解釈する説がある。水鳥についても、水辺や他界観念と結びつける見解が提示されているが、その具体的意義については研究が続いている。
■ 馬形埴輪と首長権威
馬は5世紀以降急増する。馬具を伴う例も多く、軍事力や支配者層の威信を象徴する存在であったと考えられる。とくに装飾的な「飾り馬」は儀礼的性格が強い。一方、6世紀に入ると実用的側面が強調される表現もみられ、社会の変化を反映している可能性がある。
■ 狩猟・生業を示す動物
犬・猪・鹿などは狩猟活動と関連づけられる。猟犬を伴う場面表現も確認され、単体表現から場面構成へと造形が発展している点が注目される。魚形埴輪はきわめて少数例で、河川環境との関係が想定される。
■ 稀少例
牛形・猿形・熊形などは例が限られ、地域的特色や特定の象徴的意味をもつ可能性があるが、現段階では断定はできない。
■ 主な出土例(代表例)
- 大阪府堺市・大山古墳出土 馬形埴輪(5世紀)
- 群馬県赤堀茶臼山古墳出土 鶏形埴輪(5世紀)
- 伝茨城県行方市大日塚古墳出土 猿形埴輪(重要文化財)
- 千葉県東深井古墳群出土 魚形埴輪
- 奈良県羽子田1号墳出土 牛形埴輪(重要文化財)
- (詳細寸法・所蔵情報は各収蔵機関資料参照)
■研究史的補足
動物埴輪は「死者を守護する存在」とする説がある。
- 「古墳を王宮に見立てた儀礼空間構成説」
関東に動物埴輪の種類が多い理由は、大型前方後円墳の集中、埴輪工人集団の存在が言われている・
地域差:関東型動物埴輪の特色
古墳時代中期以降、畿内を中心に展開した動物埴輪は全国に広がるが、関東地方では種類の多様性と造形の具体性がとくに顕著である。以下に、研究上指摘される主な特色を整理する。
1.種類の多様性(全国的にも最多水準)
関東では、馬・犬・猪・鹿・鶏・水鳥のほか、魚・猿・熊など稀少種も確認される。たとえば、
- 赤堀茶臼山古墳 出土の鶏形埴輪
- 東深井古墳群 出土の魚形埴輪
- 伝 大日塚古墳 出土の猿形埴輪(重要文化財)
などは、畿内では類例が限られるか、ほとんど見られない種類である。 この点は、関東が単なる埴輪の受容地ではなく、独自の展開地であった可能性を示唆する。
2.造形の具体性と写実性
関東の動物埴輪には、筋肉表現や体毛線刻、口吻・耳・蹄の細部まで丁寧に表した例が少なくない。とくに猪や鹿では、体躯の量感を強調する傾向がある。
畿内の一部が象徴的・様式化された表現をとるのに対し、関東では実際の動物観察に基づく具体的造形が目立つと指摘されることがある。
3.狩猟文化との結びつき
関東平野周縁の台地・河川環境は、古墳時代においても狩猟資源に富んでいた。猪・鹿・猟犬を主題とする埴輪の存在は、
- 首長層による狩猟儀礼
- 武威・統率力の象徴化
- 地域社会の生業構造の反映
といった側面を示す可能性がある。
魚形埴輪の出土も、利根川水系など大河川環境との関連で理解されることが多い。
4.大型古墳集中地帯との関連
群馬・埼玉北部は5世紀後半以降、大型前方後円墳が集中する地域である。とくに、
- 赤堀茶臼山古墳
- 伊勢崎市境上武士古墳群
周辺では動物埴輪の出土が目立つ。 これは、有力首長層の成立と、それを視覚的に演出する葬送空間の発達と結びつけて理解されることがある。
5.鳥形埴輪の展開と祭祀性
関東では鶏形・水鳥形の出土例が比較的多く、台座付きや首を伸ばした姿勢など多様な形式がみられる。 これらは葬送儀礼や他界観念と関わる可能性が論じられているが、解釈は一定していない。
まとめ
関東型動物埴輪の特色は、
- 種類の豊富さ
- 造形の具体性
- 狩猟的要素の強調
- 大型古墳との結びつき
にあると整理できる。
これらは、5~6世紀の関東における政治的自立性や首長層の独自性を示唆する資料として注目される。ただし、畿内文化の影響下にあったことは明らかであり、単純な対立構図ではなく、受容と再編成の過程として理解する必要がある。
参考文献
- 高橋克壽(1996)『埴輪の世紀 歴史発掘9』講談社
- 賀来孝代(2002)「埴輪の鳥」日本考古学 第1号
- 亀井正道(1995)『人物動物はにわ』 (日本の美術 No.346),至文堂
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