石製模造品 ― 2024年01月21日 00:38
石製模造品(せきせいもぞうひん)は農工具・武具・容器、勾玉などさまざまな器物の形状を真似して製作された軟質の石材である。
概要
生活 道具などの実用的品物ではないため、祭祀具であると考えられている。4世紀後半に出現し、5世紀に盛行する。古墳・集落遺跡・祭祀遺跡など様々な場所から出土する。名称は「石製品」・「石製模造品」・「石製模造器具」・「滑石製品」・「滑石製模造品」あるいは「石製葬祭具」・「石製祭具」・「石製装具」など、様々な呼び名がある。古墳時代においては、科学的な思考は無く、あらゆるものに神が宿るというアニミズムの観念が形成されていた。古墳時代の人々にとって神や精霊は身近なものであった。これまで「畿内政権の東国支配強化の手段」、あるいは「東日本への埋葬イデオロギーの移植」というやまと政権を中心にみる解釈がされてきたが、受け入れ側の視点も検討する必要がある。
模造対象
模倣の対象となった器物は、鉄製工具類のほか、鏡・玉などの宝器、剣・短甲などの武器・武具、農具や機織具、容器類など幅広い。
地域的特性
石製模造品の古墳での分布では群馬県中西部・千葉県の東京湾沿岸と古香取海南岸における集中、そして大和盆地を中心とする畿内での集中が見られる。畿内から東日本にいたる基本セットは刀子形・斧形・鎌形といった農工具のセットが基本となる。西日本では、刀子形を含む農工具セットは広島県以西の首長墳では確認されない。東と西とでは古墳における石製模造品のありかたが異なる。祭祀を執行する首長は司祭者としての性格も同時に有していた可能性が高い。
石製模造使用の目的
集団の繁栄、地域社会の安定、災厄の除去、豊作などを目的としたカミヘの捧げ物である。祭祀の道具と考えられている。それではなぜ本物を用いないのかという疑問が生じる。それは本物の器物は希少であり、容易に入手できない場合があるからである。 一方では、祭祀のルーチンにはスタンダードがあったようで、祭祀を行うためには、これが必要というものがあったのではないか。また副葬品として古墳に入れてしまうと、代わりの物が無くなるため、石製模造品を入れたとする別の説もある。 なお祭祀の性格であるが、白石(1985)は死者を祭ることと神を祭ることが完全に分離し得ない状態から、葬祭分化の状態では霊魂と神との区別が意識されるようになるとする。
森垣外遺跡出土の石製模造品
有孔円板の出土量が最多である。板状の勾玉形石製模造品は、集落及び宗教関連遺構から出土する傾向が見られる。鏡形石製模造品は、灰白色の良質な 滑石を選択的に使用しているため、製作段階において一定の石材選定基準があったと見られる。
参考文献
- 佐久間正明(2020)「福島県における石製模造品の様相」文化財講演会資料、奈良文化財研究所
- 白石太一郎(1985)「神まつりと古墳の祭祀」国立歴史民俗博物館研究報告』第7集
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