飛田給遺跡 ― 2026年02月19日 00:51
飛田給遺跡(とびたきゅういせき)は、調布市西部に所在する複合遺跡で、旧石器時代から縄文時代、さらに奈良・平安時代に至るまでの遺構・遺物が確認されている。武蔵野台地の南縁を走る「府中崖線」の上、立川段丘面の縁辺部に立地し、湧水に恵まれた地形条件を背景として、断続的に人々の生活の場となった。
1 立地と環境
遺跡は、崖線下からの湧水が得られる「はけ上」に分布する。武蔵野台地南縁部の遺跡群に共通する立地であり、水資源へのアクセスのしやすさと微高地の安定した居住環境を兼ね備えている点が特徴である。旧石器時代には石器散布、縄文時代には集落跡、中世以降には墓域など、時期ごとに土地利用の変遷が確認されている。
2 縄文時代の集落
縄文時代の遺構としては、竪穴住居跡、集石土坑、埋甕(うめがめ)、縄文土器などが検出されている。集落は縄文時代前半から終末期までの長期にわたり営まれており、縄文時代前半期の住居は遺跡東側に多い傾向がある。
確認された25軒の住居のうち8軒で、住居内に土器を埋設する例が認められた。これらは屋内埋甕または住居内埋甕と呼ばれ、多くが竪穴住居の出入口付近に設置されている。その目的については、
- 幼児埋葬施設説
- 胎盤埋納説
- 祭祀的行為説
などが提示されているが、現時点でいまだ統一的見解には至っていない。
3 敷石住居の構造的特徴
遺跡では3軒の敷石住居が確認されており、そのうち2軒は近接して検出された。両者とも柄鏡状に河原石が配置・散乱する特徴をもち、突出部には埋甕が設置されていた。また、主体部と突出部の境界には石皿が立てられており、住居内空間の区分や象徴的機能を示す可能性がある。
このような敷石住居は、縄文時代中期以降に見られる建築的工夫の一例と位置づけられ、生活空間の機能分化や儀礼的要素との関連が検討されている。
4 古代・中世以降の遺構
奈良・平安時代の遺構や遺物も確認されており、律令期の土地利用の痕跡を示すものである。また、中世・近世には地下式坑や集石土壙墓などの墓域が形成され、武士の時代の土地利用を物語る遺構も検出されている。
■研究史の整理
飛田給遺跡は、武蔵野台地南縁部、すなわち府中崖線(はけ)沿いの遺跡群の一角をなす地点として認識されてきた。所在地は現在の調布市域にあたり、都市化の進展に伴う発掘調査を契機として、その実態が明らかになっている。
1 発見と基礎的調査段階
初期調査では、旧石器時代の石器散布と縄文時代住居跡の存在が確認されており、崖線上の湧水環境に立地する縄文集落として基礎的評価が与えられた。この段階では、主として「編年的整理(出土土器型式の検討)」と、住居配置の把握が研究の中心であった。
2 住居内埋甕の評価をめぐる議論
縄文時代住居では25軒中8軒に見られる住居内埋甕の存在は、本遺跡研究の重要な論点となった。 当初は幼児埋葬施設とする見解が有力であったが、その後、
- 胎盤埋納説
- 出入口に置かれることに着目した境界祭祀説
- 生活儀礼の一環とする解釈
など複数の仮説が提示されている。飛田給遺跡の事例は、埋設位置が出入口付近に集中する点で注目され、空間構造と儀礼行為の関係を考察する資料として引用されてきた。
3 敷石住居の構造研究への寄与
3軒確認された敷石住居、とくに柄鏡状に石が配される2例は、住居平面構造の分析対象となった。主体部と突出部の境に石皿が立てられる点は、単なる床補強を超えた象徴的区画の可能性を示すものとして議論されている。 この検討は、武蔵野台地南縁に分布する敷石住居との比較研究へと展開し、地域的特徴の抽出が試みられている。
4 複合遺跡としての再評価
奈良・平安期の遺構や中世墓域の確認により、飛田給遺跡は単一時期だけの集落ではなく、崖線環境を継続的に利用した複合遺跡として位置づけられるようになった。 近年は、
- 地形環境と長期的土地利用の関係
- 崖線沿い遺跡群のネットワーク
- 集落構造と社会構成の復元
といった視点から再検討が進められている。
研究史上の意義
飛田給遺跡は、
- 武蔵野台地南縁の縄文集落研究
- 住居内埋甕の解釈論争
- 敷石住居の空間構造分析
- 崖線環境と長期土地利用研究
という複数の研究テーマに関与する事例である。とくに、住居内埋甕と空間構造の関係を具体的に示す点で、基礎資料として引用されることが多い。
調査
遺構
旧石器時代
- 尖頭器
- 掻器
縄文時代
- 縄文土器
- 土偶
- 耳飾り
- 垂飾
- 土坑2
- 竪穴建物14
- 竪穴2
- 集石36
- 配石3
- 埋甕4
- 土坑5
- 集石土坑1
- 配石1
遺物
旧石器
- 石鏃
- 土器
- 石器
- 打製石斧
- 土製品
縄文時代
- 縄文土器
- 土偶
- 土製円盤
- 耳栓
展示
- 調布市郷土博物館
考察
指定
アクセス等
- 名称 :飛田給遺跡
- 所在地 :東京都調布市飛田給2-32-11
- 交 通 :京王線「飛田給駅」から徒歩5分
参考文献
- 調布市遺跡調査会(1999)『調布市埋蔵文化財調査報告38:東京都調布市飛田給遺跡・飛田給北遺跡』調布市教育委員会
- 調布市市史編集委員会(1990)『調布市史 上』調布市
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